億男
非常に興味深い映画だった。
お金というものをテーマにして、各登場人物がどのように振る舞うのか。
あるものは実際にはないお金をあるかのように振る舞う。
あるものは手段を選ばず、お金を追求し続ける。
またあるものはお金という価値観から離脱したかのように振る舞う。
自分の考え方は誰に近いだろうか、そう重ね合わせながら見ると色々と考えさせられる。
幸せにお金は必要ない!?
この映画は衝撃的な場面から始まる。
主人公である一男が宝くじで当てた3億円を親友の九十九に持ち逃げされるのだ。
その後、彼の足取りを追うために、過去彼がITベンチャーを起業&売却した時の幹部メンバーたちの元を順に訪ねていく。
その中でも1番印象に残っているシーンがある。
一男が沢尻エリカ演じる女性の住むアパートを訪ねるシーンだ。
女性の元を訪ねて一男はまず違和感を覚える。
ベンチャー売却で10億円以上の資産を築いた女性の家にしては質素すぎるのだ。
古いアパートの定番イメージの、畳とふすまの狭い部屋。
女性はベンチャー時代のマネーゲームを終えたあと結婚紹介所で出会った男性が全くお金を頓着しないからだという。
服も住宅も、いわゆる誇示的消費といれる一切のものに全く興味がないので、質素な生活になっているという。
ただこのシーンはこれだけでは終わらない。
彼女は「あなただけ特別に見せてあげる」と部屋の壁紙を引きはがし、畳をひっくり返し始めた。
すると、金!金!金!
部屋の四方を覆い尽くす札束の壁と床。
何と部屋のありとあらゆる場所にお金が隠されていたのだ。
あぜんとする主人公に女は言う。
「お金はあることが重要なのよ」
根底にある価値観
このシーンは非常に象徴的だ。
幸せで平凡な日常を象徴する質素な部屋、それを支えるようなおびただしい数の札束。
そして彼女のセリフ。
平凡で平穏な、多くを望まない価値観を支えるにもお金が必要であることが示唆されているようだ。
しかし、この解釈では不十分かも知れない。
なぜなら九十九は「かつての仲間を大金の前にみんな変わってしまった」と言っていた。
もし、彼女が素朴な世界を守るためにお金を求めていたとしてらこの言葉は出てこないだろう。
むしろ本質は彼女が一男にお金を持っていることをバラさずにはいられなかったことにある。
「私ぃ、お金持ってんだけどぉ〜、あえてこんな生活をしてるわけよ〜」というメタな主張が見え隠れする。
それは単純なマウントから外した、また別のマウントに過ぎない。
結局根本のところでは金の魔力にやられきっていたのだと思う。
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監督の意図か原作者の意図か、このように人物と描写を掘り下げると、お金に対する重層的な価値観が見えてくる。
特に沢尻エリカのシーンは見応えのある作品だったと思う。
さあ、あなたはどのタイプか。