皆さんは選挙に行っていますでしょうか。

行きたいけど時間がないんだよな…

投票したってどうせ変わらないよ

政治について考える数少ない機会と割り切って、行くようにしてる!
色々な立場や意見があるかと思いますが、経済学者でありイェール大学助教授の成田悠輔氏は、『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』で以下のように述べています。
断言する。若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは何も変わらない。〈中略〉全有権者に占める30歳未満の有権者の割合は13.1%。〈中略〉若者は超超マイノリティである。〈中略〉選挙で負けるマイノリティであることは変わらない。
「若者よ選挙に行こう」といった広告キャンペーンに巻き込まれている時点で、老人たちの手のひらの上でファイティングポーズを取らされているだけだ、ということに気づかなければならない。
革命を100とすれば、選挙に行くとか国会議員になるというのは、1とか5とかの焼け石に水程度。何も変えないことが約束されている。中途半端なガス抜きで問題をぼやけさせるくらいなら、部屋でカフェラテでも飲みながらゲームでもやっている方が楽しいし、コスパもいいんじゃないかと思う。
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』SBクリエイティブ、2022年。
この記事では成田氏の『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』の要約と解説を行い、民主主義国家の問題点と今後の展望について考えていきます。
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』の3つのポイント
・今までは資本主義と民主主義の二人三脚で社会は回っていただが、現在民主主義が機能不全を起こしている。
・民主主義の機能不全の対策の方向性には、「闘争」、「逃走」、「構想」がある。
・成田氏が推す「構想」とは「無意識データ民主主義」である。
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』の著者
↓成田悠輔氏はどんな人?
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』のひとこと要約
本書は現在の技術レベルを踏まえて、時代遅れになりつつある民主主義のアップデートを構想する一般書である。
今までは資本主義と民主主義の二人三脚で社会は回っていただが、現在民主主義が機能不全を起こしていると成田氏は指摘する。
その原因は社会やその問題の変化のものすごい勢いに対応するには、凡人の日常感覚に寄り添う民主主義は遅すぎるということである。
そこで、この民主主義の機能不全に対処する方向性として「闘争」、「逃走」、「構想」の三つを成田氏は挙げる。
成田氏の本命は「構想」、つまり、民主主義の理念は変えず、その実現の手段を選挙以外からも考えるというものである。
具体的には「無意識データ民主主義」と成田氏が呼ぶ社会の意思決定方法である。
それは、選挙によって「意識」的に政策及びその実行者としての政治家を選ぶのではなく、国民の行動や言動等のビッグデータに対してAIによる処理をかけることで、政策も目標及びその実現方法を選定する方法である。
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』のじっくり解説
民主主義の機能不全
これまでの資本主義と民主主義の二人三脚
これまで西欧を中心とした世界は資本主義と民主主義の二人三脚で回っていました。
経済の成長の原動力となる資本主義には勝者を徹底的に勝たせるという側面があり、それゆえ勝者と敗者の格差を際限なく広げてしまいます。
その全力で前へ前へと突っ走る暴れ馬である資本主義の手綱を握っていたのが民主主義です。
というのは民主主義は生まれてしまった弱者にも選挙という形で自分の意志を表現し、それを社会に反映する機会を与えてくれるからです。
現在の民主主義の故障とその原因
しかし、現在、民主主義はその役割を十分には果たせておらず、機能不全に陥っています。
ネットやSNSを通じて陰謀論やフェイクニュース、ヘイトスピーチが拡散され、過激なことを言うポピュリズム政治家同士の動員合戦に、国民は右往左往されています。
そして今世紀に入ってから非民主・専制化する方向に政治制度を変更する国が増え、世界的にみると民主国以外でに住む人の方が多くなっています。
また、経済分野においても民主主義国家は影を落としています。
今世紀に入ってから、民主主義的な国ほど経済成長が停滞しています。
このことを成田氏は、民主主義が劣化するのに伴い人々は閉鎖的で近視眼的になり、そのことによって資本投資や輸出入などの未来や他者に開かれた行動が減速してしまっていると分析しています。
また、今日の技術革新などによる社会の変化の爆発的な速度(社会の非日常化)に対し、凡人の日常感覚(=世論)の顔色をうかがう民主主義では到底追いつけないということも、民主主義が失敗している原因として挙げられています。
民主主義のへの三つの処方箋
上記のような民主主義の機能不全に対して、民主主義国とそこに住む人々はどのような対策を講じることが出来るのでしょうか。
『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』の中で、成田氏はありうる三つの処方箋をそれぞれ検討しています。
その三つとは、①民主主義との「闘争」、②民主主義からの「逃走」、③民主主義の「構想」です。
以下ではそれぞれを具体的に解説していきます。
民主主義との「闘争」
「闘争」とは、民主主義と真正面から向き合い、制度の調整と改良を行う方向性です。
先ほど、今日民主主義が劣化しており、その意思決定が閉鎖的で近視眼的になっていると述べました。
長期的視点で未来のことを考えず、選挙への再選のことのみが念頭にある政治家が国民にとって耳障りのいいことのみを述べて、根本的な問題解決に踏み出さない。
選挙におけるマジョリティである高齢者の「自分が生きている間さえ日本が沈まなかったらいいや」という感覚に寄り添って、将来へ問題を先送りする。
この状況に対する対策として成田氏は以下のような「調整と改良」の案をあげています。
- 政治家が退任した後の未来の成果指標に応じて引退後の成果報酬年金を出す
- 情報流通やコミュニケーションの速度を下げ、過激化・極端化を緩める政策や制度
- 政治家への定年や年齢上限
- 論点・イシュー単位の選挙制度
これらは部分的に他国では実装されている案もあり、決して不可能ではありません。
しかし、「調整と改良」を行うにあたって、大きな問題があります。
それは現在の選挙制度によって勝った現職の政治家が、自らにおいしい思いをさせてくれるその制度を変革しようとするでしょうか。
その可能性は絶望的です。
民主主義からの「逃走」
そこで次に考えられる我々にできる対応策が、民主主義を見捨てて「逃走」することです。
どういうことでしょうか。
一番イメージしやすい例だと、富裕層の個人資産の海外避難です。
タックスヘイブンと呼ばれる税率の低い海外の地域に個人資産を逃がすことで、税金という国の制度から部分的に逃亡することに成功しています。
このように部分的な逃避は様々な形ですでに実現しています。
これが極限まで行きつくと、どの国も支配していない公海上に新しい金持ちや才能があるものによる国家群を作ろうという試みにつながります。
一見SF的なファンタジーに思えますが、実際に試みられていることです。
これは「海上自治都市協会」というムーブメントであり、PayPalやpalantirといった企業を生み出した企業家であるピーター・ティールが投資・支援をしていることで有名です。
こうしてできた国家はさながら企業のように運営され、自らのサービスを他国と競いながら、国民を集めます。
そして、国民も自由に自分の望むサービスを提供する国家を選択できるようになるというのが最終的にイメージされる姿です。
民主主義が機能不全ならそこから逃走すればいい、一見合理的に思えますが、一つ大きな問題が残ります。
それは、民主主義的な問題が解決されないままに放置されるということです。
まず、全員が全員、国家を自由に移動する選択を取れるわけではありません。
多くの凡人や弱者たちは「民主主義国家」に取り残されることになります。
また、仮に運良く新国家群に移動したとしても、そこにおける国家運営を巡ってまた民主主義的な問題と再会する可能性もあります。
民主主義的な問題から逃走したからといって、その問題が消えてなくなるわけではありません。
一部の幸運な人以外は、どのみち向き合わなければいけません。
民主主義の「構想」
そこで最後に検討される民主主義への向き合い方が、「構想」であり、再発明です。
つまり、民主主義の理念はそのまま据え置きにして、それを実現する手段を無制限に再検討し、選挙よりもより合理的にその理念を実現できる制度を考え直すというものです。
では、具体的にどのような制度が考えられるのでしょうか。
成田氏は本書において「無意識データ民主主義」を提案しています。
無意識データ民主主義
成田氏は「選挙」とは民意データを取得するための装置として定義しています。
なので、民意データさえ取得できれば、必ずしも「選挙」は必要ではありません。
「選挙」は民意のデータ源の一つに格下げして、多様な経路から民意のデータを取得し、政策決定を行うというのが成田氏の主張する「無意識データ民主主義」です。
様々な生体情報や行動ログ、インターネット上に残る興味・関心の履歴から国民の無意識・半意識のデータを「入力情報」として取得し、それに対して複数のアルゴリズム処理をかけて、民意として「出力」する。
その方がデータというエビデンスに基づいている分、より正確に民意を把握し、その民意の実現のための政策立案もより合理的に行うことが出来ると成田氏は主張します。
こうしてデータとソフトウェア・アルゴリズムによって政治家の「政策実行」機能がまず代替されます。
残るのは政治・立法の顔になって熱狂や避難を引き受け世論のガス抜きをする「アイドル・マスコット・サンドバッグとしての政治家」としての機能です。
それはおっさんである政治家よりも、アイドルやネコの方が上手くできます。
だから成田氏は本書の副題で「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」と述べているのです。
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』の思わず引用したくなる名言
革命か、ラテか?
実直な資本主義的市場競争は、能力や運や資源の格差をさらなる格差に変換する。そんな世界は、つらい。そこに富める者がますます富む複利の魔力が組み合わされば、格差は時間とともに深まる一方で、ますますつらい。このつらさを忘れるために人が引っ張り出してきた鎮痛剤が、凡人に開かれた民主主義なのだろう。
21世紀の主成分には共通点がある。常人の直感を超えた速度と規模で反応が爆発することだ。ユーザートラフィックの爆発のように良い爆発もあれば、感染爆発のように悪い爆発もある。こういう世界では、爆発が起きる「前に」徹底的な投資や対策で一時的に強烈な痛みや赤字を引き受けられるかどうかが成功の鍵になる。一見すると猛烈な浪費にも見える赤字や痛みに突っ込んでいくサイコパス性が必要になる。
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