マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』の要約と解説

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社会はあなたの功績に対して報いてくれていますでしょうか。

社会は平等だと思いますでしょうか。

もし仮に一定の成果を収めているとしたら、それは自分の努力のおかげだと思いますか。

何か今の社会に対してモヤモヤを抱えていませんでしょうか。

マイケル・サンデル氏の政治哲学書『実力も運のうち 能力主義は正義か?』はそういった社会に対するモヤモヤに対して一つの解を与えてくれます。

マイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』早川書房、2021年。

この記事ではマイケル・サンデル『実力も運のうち 能力主義は正義か?』の要約と解説を行います。

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マイケル・サンデル『実力も運のうち』の3つのポイント

・功績は幸運の反映でもある

・能力主義は勝者に傲慢を、敗者に屈辱を

・能力主義を制約し、共同体意識の再構築すべき

マイケル・サンデル『実力も運のうち』の著者

・アメリカ合衆国の政治哲学者、哲学者、倫理学者。

・ハーバード大学教授。

・共同体意識や共同体の価値観を重視するコミュニタリアニズムという立場をとる。

・NHKで放送された『ハーバード白熱教室』で日本でも有名になった。

マイケル・サンデル『実力も運のうち』のつぶやき要約

『実力も運のうち』は共通善・社会的絆の再構築を主張する共同体主義の立場から書かれた政治哲学書である。

現在のアメリカ社会では「人は能力に応じた成果を得るべきであり、失敗した人は努力が足りない」という能力主義的価値観が蔓延しているが、それは市民の仲間意識の破壊など、様々な弊害を引き起こしている。

今一度、社会の仲間意識や共通善を構築するためには、能力主義を制約する必要がある。

マイケル・サンデル『実力も運のうち』のじっくり解説

能力主義的価値観が蔓延した社会

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「人は能力に応じた報酬を得るべきだ」という主張を聞いた時、どのように感じますでしょうか。

それほど間違った主張のようには感じないですよね。

特に「成果を出しても給料が上がらない!」、「生産性が低い!」、「イノベーションが起きない」、「世代間格差がひどい!」と言ったことが近年問題になっている日本では、能力主義社会というのは目指すべき目標のように語られます。

では仮にこの能力主義が実現された、もしくは実現されていると人々が信じている状態になったとしましょう。

その時どのようなことが生じますでしょうか。

「人が能力に応じた報酬を得る社会なのだから、現在みじめな状況なのは君のせいだ。なので、現状を変えたければ正しい努力をしたまえ」

論理的にこのような主張に行きつくことになります。

この文章を読んでどのように感じましたでしょうか。

「人は能力に応じた報酬を得るべきだ」という文章を読んだ時よりも、同意できる感は下がるのではないでしょうか。

「まあ、正論なんだけど…さ」

しかし、この能力主義的価値観が日本より一歩進んで社会全体に蔓延し、自由市場主義を掲げてきたのがアメリカです。

マイケル・サンデル氏の『実力も運のうち』はその現状を分析・批評した本です。

そこには、日本がこのまま能力主義を追求していけば行き着く社会の未来像が描かれています。

いえ、「自己責任論」の声がますます強くなっている日本の現状を考えると、もはや日本について記述していると言っても言い過ぎではないでしょう。

能力主義的価値観に対する反論

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サンデルは能力主義的価値観に対して主に二つのベクトルから批判を行っています。

以下ではそれぞれを見ていきます。

①社会は本当に能力主義なのか

一つ目の反論は「能力主義的価値観は蔓延しているけど、社会は本当に能力に応じて報いているのか」という反論です。

「皆が同じ条件なら、自分の結果は自分の責任と受け止めるべきだ」という能力主義の主張の「皆が同じ」という条件に疑念をぶつけているわけです。

では、「皆が同じ」という能力主義が実現している社会が一体どういったものか具体的に考えてみましょう。

それは端的には、「どんな家庭に生まれたとしても、社会的に成功するチャンスがある」ということです。

では実態はどうでしょうか。

サンデルは以下のようなデータを持ち出し、能力主義社会は実現されていないと主張します。

所得規模で下位五分の一に生まれた人びとのうち、上位五分の一に達するのは、だいたい二〇人に一人にすぎない。

ハーバード大学やスタンフォード大学の学生の三分の二は、所得規模で上位五分の一に当たる家庭の出身だ。気前のいい学資援助策にもかかわらず、アイビーリーグの学生のうち、下位五分の一に当たる家庭の出身者は四%にも満たない。

つまり、豊かに生まれたものは豊かになる確率が高く、貧しく生まれたものは貧しいまま死ぬ確率が高いということがデータから明らかなのです。

この原因として様々理由が挙げられます。

例えば、子どもに将来豊かさな生活を送らせようとしたときの一つの手段として、いい大学に入学させるという手段が考えられます。

しかし、アイビーリーグのような名門私立大学に行くには熾烈な競争を勝ち残る必要があります。

豊かな家庭では、そこに合格するだけの優れて教育を幼いころから受けさせることが出来ます。

さらには、アメリカの大学では寄付金を多く支払った家庭の子供を優遇するという制度まであります。

豊かな家庭は子どもに豊かさを引き継がせることが出来るのです。

このように能力主義の実態は、全く公平性を欠いたものなのです。

②能力は幸福に支えられている

能力主義的価値観に対する二つ目の反論は「能力主義は道徳的に肯定できる根拠がない」というものです。

能力主義的価値観を正当化する道徳的な根拠は「能力は個人の努力や勤勉と言った美徳を反映しているので、それは賞賛されるべきである」と言ったものです。

しかしその根拠は二つの理由から道徳的に疑わしいとマイケル・サンデルは主張します。

一つ目は、個人がある特定の才能を持っているのは、遺伝や家庭環境などの幸運かどうかの問題であり、その個人が美徳を持っているからというわけではないという理由です。

二つ目は、ある特定の才能を持って生まれてきたとして、それを評価してくれくる社会に生まれてきたかどうかは幸運の問題だということです。

筆者はここでアームレスリングとバスケットボールの例を持ち出します。

仮にあなたが、アームレスリングで世界で敵なしの才能を持って生まれたとしましょう。

それは世界で70億分の1という希少性のある才能です。

しかし、だからと言って社会から絶大な承認と経済的な報酬を得られるわけではありません。

では、たまたまバスケットボールで世界一になれる才能を持って生まれてきていたとしたらどうでしょうか。

例えば、NBAのNo.1プレイヤーと言われているレブロンジェームスは契約金だけで年40億円以上の報酬を得ます。

しかし、彼がバスケットボールが大人気の現代の社会に生まれてきたことは彼の手柄ではありません。

このように個人の能力は偶然性に大きく左右されるものであり、「能力は個人の努力や勤勉と言った美徳を反映しているので、それは賞賛されるべきである」という能力主義の主張は、道徳的には全く根拠がないということになります。

過度な能力主義の弊害

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以上、能力主義は公平性を欠いており、また道徳的な根拠も希薄であることを確認してきました。

にもかかわらず、現在の社会において「人が能力に応じた報酬を得る社会なのだから、現在みじめな状況なのは君のせいだ。なので、現状を変えたければ正しい努力をしたまえ」といった能力主義的な価値観が蔓延しているということは、どのような影響をもたらしているのでしょうか。

能力主義的価値観に基づくのであれば、「成功している自分は自分の美徳のおかげ、失敗している君は君の悪徳のせい」というように道徳的な価値が社会における成功と紐づくことになります。

その様な状況下では、勝者は自分の成功に対して傲慢になって敗者を見下し、敗者は現実で苦しんでいるところをさらに侮辱をうけて勝者を憎むことになります。

その様な状況下では勝者からの同情も敗者からの尊敬も生じえず、「熟議を重ねて自分とは立場の違う他者のことも考える」という民主主義・市民社会の前提が蝕まれていきます。

具体的には、リベラルエリートからすればブルーカラーで仕事を失った貧しい白人は「閉鎖的な排外主義」であり、貧しい白人からすればリベラルエリートは「自国の仲間より他国のエリートを優先するいけ好かないヤロー」になります。

サンデルはそういった社会的な分断が「トランプ現象」や「ブリグジット」につながったと考えています。

このように、過度な能力主義社会は社会の分断を生み、民主主義社会・市民社会を機能不全にしてしまうのです。

そして、サンデルはこの分析を元に、能力主義・市場主義を一定程度制約すべきだと主張します。

マイケル・サンデル『実力も運のうち』の名言・引用したくなる言葉

運命の偶然性を実感することは、一定の謙虚さをもたらす。

中国における世代間移動はいまやアメリカを上回っている

(今やアメリカよりも中国の方がアメリカンドリームがあるという衝撃の事実!!)

能力主義の理想は不平等の解決ではない。不平等の正当化なのだ。

 


 

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