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瀬尾まいこ『卵の緒』のあらすじと感想【読書会レポート#15】
【読書会レポート#15】紹介された本:瀬尾まいこ『卵の緒』
瀬尾まいこ『卵の緒』のあらすじ
主人公は自分が捨て子であり、片親で自分を育ててくれた母が実の親ではないことを知っていた。
なんてことはない、母に「僕は捨て子?」と尋ねると、「そうだよ、橋の下で拾ってきた」と開けっ広げに応えるからだ。
ただ、その事実は主人公の母への愛を揺るがせることはなかった。
母が自分のことを愛してくれているのが分かっていたからだ。
過去のことよりも今この瞬間をどう過ごすかの方が大切だった。
しかしある時、そんな母は再婚することになり、自分はいったい誰なのかに向き合わなければならなくなった。
母に詳細を訪ねても「卵から産まれた」と軽口で返してくる始末。
主人公は自分のルーツをたどることになるが…
瀬尾まいこ『卵の緒』に対する紹介者Sさんの感想・観点
・家族はこうあるべきだという世間の考えではなく、本人たちがどう考えるかのほう重要というメッセージが伝わってきました。
・瀬尾まいこさんのデビュー作です。
・同じ単行本に収録されている別の短編も異母姉弟という一般的ではない家族の話です。
・やわらかい読後感が好きです。
瀬尾まいこ『卵の緒』について読書会で話題になったこと・感想

『そして、バトンは渡された』もそうですが、瀬尾さんは複雑な家族関係を軽やかに書くのがうまいですよね。

そうですよね。逆境があるわけじゃなくて、日々の小さな違和感の積み重ねの中で新しい人間関係を提示するみたいな。

瀬尾さんは複雑な家族関係をテーマにしている作品が多いのでしょうか。

いえ、あまりそういった印象はないです。私が読んだ中だと『卵の緒』と『そして、バトンは渡された』くらいですね。ただ、『僕らのごはんは明日で待ってる』みたいに「重いテーマに別の光の当て方をして軽やかに書く」というのは一貫しているかもしれません。
※ネタバレ注意

結局主人公の正体は何だったのですか。

お母さんが昔好きだった大学の先生の息子さんです。奥さんに先立たれて、途方に暮れていた男性を好きになって、子どもを引き取りました。

瀬尾さんだから安心して聞けますが、それだけ聞くと先生がひどい男のドロドロしたドラマみたいですね笑

お母さんの方から先生の息子を一目見て引き取りたいって運命を感じたので、そこまで先生は悪く描かれていないですね。
瀬尾まいこ『卵の緒』に対する投稿者の感想
瀬尾さんだけではなく、村田沙耶香さんなど女性の作家は「家族」という観念に対して、世間一般のイメージとは違う新しい像を提示するのがうまいなという印象です。
ただ、瀬尾さんと村田さんとでは同じ「家族の相対化」でもベクトルは真逆です。
瀬尾さんは「こんな家族像もありじゃない」と横にそっと新しい像を提示する感じですが、村田さんは「既存の家族像がいかにキモいか」を提示して、固定観念を内から食い破る感じです。
女性の作家がこれだけこのテーマを様々な角度から取り上げるのは、それだけ男性が無自覚になりやすい「家族」の重さやしがらみが切実な問題なのだと考えさせられます。
しかし、共働き世帯が一般的になり、「クレヨンしんちゃん」のような家族がもはや「ぜいたく品」になった現在の日本において、新しい家族像を模索する必要があるのは女性だけではありません。
(参考:男女共同参画局『男女共同参画白書(概要版) 平成30年版』)
こういった女性作家のすばらしい想像力を輸入して家族像を改めて考えることは、社会一般にとっても必須であるように思います。
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